落ちてく太陽、下る僕。

弱めの風。日が沈みかかっている。ここは標高何メートルなんだろう。多分そんなに高くはない。四キロメートルくらいだろうか。いや、そんなに高くないのかな。山には詳しくないからちょっと分からない。登るのに思ったより時間がかかったからけっこう高い山なのかもしれない。

今日、山を登ろうと思ったのは、特にたいした理由なんてなくて、何か無性に動きたくなったから。たまにそういう瞬間はある。叫びたいような、動きたいような、暴れたいような。そんなどうしようもない衝動に突き動かされて、突然頭に浮かんだことをなんの意味もなくやってみたくなる。無駄なことがしたくなる。今日はテスト前日だけど、勉強なんかしたくなかった。机に向かってみても、ペンを動かすことなんて1つもできない。だから横に目をやって、目に入った漫画を手に取り、現実とは違う世界へ逃亡する。漫画の中の主人公に自分を投影する。平凡きわまりない自分が、その瞬間だけは世界で、唯一無二のものすごいやつになったような気分になれる。いつもは言えないことだって、できないことだって、飄々とした顔で、何でもやってのけられる気がするんだ。でも最後のページをめぐり、本を閉じると、また机の上の数学の問題が目に飛び込んでくる。そうするとダメだ。一瞬で現実に押し戻される。さっきまで怖いもの知らずだった自分が嘘みたいに、いつもの脆弱な自分に戻る。

そんなことで部屋にいても何も始まらないから、とりあえず僕は、自転車の鍵を手に取り、ドアを開けて外に出る。そしてサドルに股がりペダルを踏む。今日のペダルは、いつもより少しだけ重かった。

そして何も考えず、真っ直ぐに道を進んだ。しばらくすると、1つ目の交差点に来て決断を迫られた。右か、左か?

そして僕は右に曲がった。単純に右側の道の方が景色がいいからだ。そしてまたペダルを踏む。

どちらへ進むかは決めたものの、まだどこへ向かうかは決まっていない。さあどうする。

そこで頭に浮かんで、いってみようかと思ったのがこの山だ。子供の頃に何度か行ったきり、5年ほど来ていなかった山。

案外来てみると悪くない。最近の運動不足の解消にもなったし、山頂から見る景色は思いの外絶景だった。オレンジがかった空が美しい。僕もあんな風に美しくなれたら。そんなことを思いながら、僕は太陽が落ちる前に、山を下ろうと、一歩を踏み出した。

 


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